「お金がなくて満足に食事もできない」「収入が少なくて、生活に必要なものが買えない」など経済的に貧窮していて、日々の生活に不安を抱える人は少なくありません。
そういった方の助けになるのが「生活保護制度」です。
生活保護制度は、憲法25条(※)で定められた「健康で文化的な最低限度の生活」を国民に保障しています。
すべての国民は「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利があり、国はその実現に努めなくてはならないと憲法で定められているのです。
<憲法25条>
① すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
参照元:e-gov法令検索
より具体的には、国が定めた基準により算出された「最低生活費」が得られない人に対し、生活保護制度は経済的な支援を行います。
安定した収入がない等で経済的に貧窮し、途方に暮れている方は生活保護制度の利用を検討しましょう。
結論として以下4つの条件さえクリアすれば、この制度を利用できます。
理由 | 詳細 |
資産の活用ができない | 預貯金や生活に利用されていない土地・家屋等の売却による資産活用ができない |
能力の活用ができない | 身体的な事情等により働く能力がない |
あらゆるものの活用ができない | 年金やその他公的支援制度の活用ができない |
扶養義務者の活用ができない | 親族等から援助を受けれない、または拒否されている |
この記事では生活保護制度を利用するための条件や具体的な支援の内容、生活保護を申請してから受給するまでの流れを解説します。
生活保護を受けるために必要な4つの条件
生活保護は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための制度ですが、「お金が足りなくて生活が苦しい」というだけでは利用することはできません。
「お金が足りない=健康で文化的な最低限度の生活を送れない」わけではありません。
生活保護を申請した場合、国は「生活保護以外で本当に十分な生活費をえる手段がないか」を審査します。
逆に言うと、生活保護を使わなくても「健康で文化的な最低限度の生活」が送れると審査で判断されれば、生活保護は利用できないわけです。
それでは実際にどのような条件を満たせば、生活保護が受けられるのでしょうか。
具体的には、以下の条件を満たす必要があります。
- 持ち家や自家用車などの資産を活用できない
- 働きたくても働けないなど能力を活用できない
- 該当する公的制度が生活保護以外に見当たらない
- 親族などで支援してもらえる人が見当たらない
これらのうち、1つでも該当しない条件がある場合は、残念ながら生活保護は利用できません。
以下、より詳しく条件をみていきましょう。
持ち家や自家用車などの資産を活用できない
生活保護法では「最低限度の生活」を維持する目的で、資産の活用を求めています。
■生活保護法第4条抜粋
第四条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
参照元:e-gov法令検索
売却することによって生活費に充てられると判断される資産がある場合は、生活保護は受給できません。
まずは、資産を売却し生活費に活用できないかどうか要求されます。
このとき、売却を求められる資産の例は以下の通りです。
不動産 | 生活に最低限必要な土地や家屋は所有を許可されます。しかし持ち家でも、処分価値が高いと判断されるときは売却をすすめられることがあります。 |
自動車 | 原則として自家用車の保有は認められていません。通勤などは基本的に公共交通機関の利用がすすめられます。 ※生活上、どうしても自動車が必要というときは例外的に所有が認められることもあります。詳細は後述します。 |
バイク | 総排気量が125ccを超えるバイクについては、自動車と同様に売却して生活費にあてることが求められます。 |
貴金属 | 最低限度の生活に必要とは言えないので、売却して生活費にあてることが求められます。 |
民間保険 | 終身保険や個人年金保険のように、高額な解約返戻金がある民間保険については売却が求められます。生活費として活用できるためです。(掛け捨て型の医療保険などは、保有可能です。) |
働きたくても働けないなど能力を活用できない
現在働いており十分な生活費が得られる人は、生活保護を受けることはできません。
生活保護を受けなくても、自分の収入で最低限度の生活が維持できると考えられるためです。
生活保護は、働きたくても働けない人、働いても十分な生活費を得られない人が対象となります。
これらに該当する人に、生活保護が最低限度の生活を保障するわけです。
より具体的には、以下のような方が生活保護の受給が可能です。
■働いてはいるものの著しく収入が低い
働いていても収入が少なくて、最低限度の生活に足りない場合は生活保護の対象となり、足りない分が生活保護から援助されます。
※最低限度の生活費がどのくらいになるかは、居住地や世帯人数などによってまちまちです。詳細は後述します。
■病気や怪我、高齢などで働きたくても働けない
病気や怪我、障害、高齢などの理由で働きたくても働けないという場合は、生活保護を受けられる可能性があります。
この他にも障害で世話が必要な子どもを抱えたシングルマザーの方など、働けない理由があるときは生活保護を受給できる可能性があります。
該当する公的制度が生活保護以外に見当たらない
お金に困っている人が利用できる、国の経済的な援助は生活保護だけではありません。
生活保護はあくまで最終的な手段であり、その他の援助が受けられるようならそちらを優先する必要があるわけです。
生活保護に代わるような経済的な援助の例としては以下があげられます。
失業保険 | 職を失った人が一定期間受け取れる雇用保険の保険金です。失業保険の金額は、だいたい離職する前に受け取っていた給与の50~80%程度です。 |
労災保険 | 通勤や業務中の事故などで怪我をしたり病気になったりしたときに受けられる保険です。業務中の事故により労働者が亡くなってしまった場合は、遺族に支払われます。 |
障害年金 | 障害や病気によって働けない人・生活に困窮している人が受け取れる年金です。障害・病気の程度によって受給の可否や受給額がかわります。 |
老齢年金 | 65歳以上の人が受け取れる年金です。 |
遺族年金 | 生計を支える家族が亡くなったときに、遺族に対して支払われる年金です。 |
ここにあげた例以外でも、国民を経済的に援助する制度は複数あります。
生活保護を申請する際に、他にどのような援助を受けられる可能性があるかアドバイスを受けられます。
親族などで支援してもらえる人が見当たらない
生活保護法では、生活保護を受ける前に親族からの経済的援助を優先するよう定めています。
■生活保護法第4条抜粋
民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
参照元:e-gov法令検索
つまり親族から経済的な援助が受けられない場合に、生活保護が受けられることになります。
反対に親族が経済的に援助する場合は、生活保護が受けられないか、生活保護で支給される金額がその分減らされます。
対象となる親族の範囲は以下の通りです。
- 配偶者
- 親や子、孫、祖父母と言った直系親族
- 兄弟姉妹
- その他、現在援助をしている親族
※3親等以内の親族が対象
生活保護実施の可否を決める審査の際には、該当する親族に対象者への経済的な援助が可能な問い合わせ(「扶養照会」)を行います。
しかし以下の条件に該当し、そもそも扶養が困難と判断される場合には扶養照会が行われません。※
※参照元:「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」
- 施設入所者や70歳以上の高齢などの理由で、扶養が不可能な場合
- 対象者と相続をめぐり対立しているなどで、交流が断絶している場合
- 暴力・虐待などにより対象者の自立に支障があると認められる場合
特に夫のDVから逃れてきた母子のように、扶養照会を行って欲しくない人もいるでしょう。
そういった場合は審査の際に事情を説明すれば、扶養照会を省略してくれるわけです。
生活保護でもらえる実際の金額
生活保護で行われる経済的な援助の金額は、厚生労働大臣が定めた基準により算出された「最低生活費」に基づき決定されます。
最低生活費は住んでいる地域や世帯人数等によって異なり、一定ではありません。
また生活保護によって受けられる経済的な援助の種類(扶助)は、以下の通り8つ存在します。
生活保護の受給者は、状況によって複数の扶助が支給されます。
扶助の種類 | 概要 |
生活扶助 | 食費・光熱費・被服費など日常生活に必要な費用 |
住宅扶助 | アパートやマンションの家賃など ※一定の範囲内で実費を給付 |
教育扶助 | 義務教育を受けるのに必要な学用品費 ※一定の範囲内で実費を給付 |
医療扶助 | 必要な医療を受けるための費用 ※直接医療機関へ支払われ、本人へは支給されない |
介護扶助 | 介護を受けるのに必要な費用 ※直接介護事業者へ支払われ、本人へは支給されない |
出産扶助 | 出産するに必要な費用 ※一定の範囲内で実費を給付 |
正業扶助 | 就職するのに必要な技術の習得に係る費用や、作業着など就職時にかかる費用 ※一定の範囲内で実費を給付 |
葬祭扶助 | 葬式・通夜・法事といった葬祭にかかる費用 ※一定の範囲内で実費を給付 |
これら扶助が加算され「最低生活費」として算出されます。
では生活保護によって、実際にどのくらいの金額が支給されるのでしょうか。
次の項でみていきましょう。
3人世帯の平均的な生活保護費はおよそ15万円
生活保護によって受けられる経済的な援助の金額は、以下資料を参考に算出できます。
これら資料をもとに、生活保護費が実際いくらになるか3人世帯を例に算出してみましょう。
ここでは40代の両親と息子(小学生)がいる世帯を例にとります。
この例を参考に、まずは生活扶助(日常生活に必要な経済的援助)の金額を算出してみましょう。
住んでいる場所 | 生活扶助の金額 |
東京都23区 (1級地-1) |
149,660円 |
千葉県野田市 (2級地-1) |
137,850円 |
愛知県半田市 (3級地-1) |
131,430円 |
さらに、上記の例では小学生の児童1人がいるため養育のための費用として、それぞれ10,190円ずつ加算されます。
そのため3人世帯で15万円前後の生活扶助が支給されることになります。
その他、賃貸などで家賃を支払っている場合は、住宅扶助を受けることも可能です。
上記の地域における住宅扶助の限度額は以下の通りです。
住んでいる場所 | 住宅扶助の金額 ※3人世帯の場合 |
東京都23区 (1級地-1) |
69,800円 |
千葉県野田市 (2級地-1) |
53,000円 |
愛知県半田市 (3級地-1) |
46,600円 |
この金額が生活扶助に加算されるわけです。
生活扶助(自動養育加算含む)と住宅扶助を加算した場合の、上記それぞれの地域で受け取れる生活保護の金額は以下のようになります。
- 東京都23区:229,650円
- 千葉県野田市:201,040円
- 愛知県半田市:188,220円
医療費や出産などにかかる費用も本人負担なし
生活保護に関しては、上の項で算出した生活扶助・住宅扶助以外にも、必要に応じて経済的な援助が受けられます。
たとえば医療扶助は、病気や怪我で病院に診療してもらった際に、治療・手術・投薬などの費用を全て支払ってもらえる制度です。
また出産の際には、病院や助産施設で出産する費用を支給してくれる出産扶助が利用できます。
医療扶助に関してはかかった実費が基本的に全額援助されます。
ただし本人の希望で個室に入った場合の差額ベッド代など、最低限と言えない費用に関しては自己負担となるので注意しましょう。
その他、先進医療のように健康保険の適用外となる医療についても、医療扶助は適用されません。
このあたりの費用が不安であれば、別途民間の医療保険などを利用するとよいでしょう。
一方、出産扶助に関してもやはり最低限の援助となり、差額ベッド代などは生活保護の対象ではないので注意して下さい。
また出産扶助については上限額があり、費用が上限をこえた場合も、上限額までの援助となります。
- 施設分べんの場合:295,000円以内
- 居宅分べんの場合:259,000円以内
※参照元:「2020(令和2)年4月1日施行生活保護実施要領等」
上記は乳児1人あたりの金額であり、双子を生んだ場合は支給額も2倍となります。
包帯・ガーゼなどの衛生用品にかかった「衛生材料費」として、別途全国一律で6,000円が支給されます。
働いている場合や年金受給者でも最低生活水準に満たない場合は生活保護の対象になる
働いていたり年金を受給したりしていて、安定した収入がある人は生活保護を受けられないと考えていませんか。
結論から申し上げますと、これは誤解です。
仮に収入があったとしても、最低限の生活を過ごすのに必要な費用に満たなければ、足りない分の経済的援助を受けられます。
このとき、最低限の生活に必要な費用のことを「最低生活費」と呼ぶのです。
最低生活費とは、生活扶助と住宅扶助の合計額です。
たとえば最低生活費が15万円で、毎月10万円の収入(手取り)がある場合は、15万円-10万円=5万円が支給されることになります。
(実際には通勤費用等の実費が収入から引かれたり、基礎控除が考慮されたりして、支給される額は増えます。)
ちなみに、働いて受け取った収入や年金以外でも、以下のような収入がある場合、これらも生活保護の減額対象となるので注意して下さい。
- 生命保険で受け取った保険金
- 車や家を売却して得たお金
- 親族から仕送りされたお金
- 退職金
- 失業保険・傷病手当・児童扶養手当といった公的な手当
生活保護は、あくまで最低生活費がえられない人のためにつくられた制度です。
ゆえに別途収入がある場合でも、保障されるのは最低生活費までとなります。
地域の福祉事務所にて相談・申請をする
生活保護を申請する場合は、はじめに地域の福祉事務所へ行って生活保護を受給したいと伝えます。
お住まいの地域にある福祉事務所の名称や各事務所の公式サイトURLは、以下厚生労働省の公式サイトで確認可能です。
お住まいの地域に福祉事務所がないときは、町村役場の福祉担当課が手続きを受け付けています。
福祉事務所では、申請手続きを行う前に事前相談が行われます。
最初から申請手続きに入るわけではありません。
事前相談では現在の就労状況・経済状況についてヒアリングを受けた上で、生活保護以外に生活維持できる方法があれば提案されます。
たとえば生活保護と同じように、経済的に苦しい方を支援する国の制度としてあげられるのが「生活困窮者自立支援制度」です。
生活困窮者自立支援制度では、利用者に応じて就労支援や家賃相当額の支援、一時的な宿泊場所・衣食の提供などを行います。
事前相談で生活保護以外に方法がないと判断された場合は、担当者の指示に従い申請書を記入し提出します。
生活状況の確認・資産の調査を受ける
生活保護の申請手続きを行ったあとは、生活保護支給の条件を満たすか判定するために以下にあげる調査が行われます。
■生活状況を把握するための調査
ケースワーカーが自宅に訪問し、生活状況や保有資産を調査します。
調査でチェックされるのは、どのくらいの広さの部屋に住んでいるか、どのような資産(預金・家具・貴金属・自動車など)があるかなどです。
ここで「必要最低限」といえない高級な貴金属などがあった場合、売却して生活費にあてることを提案される可能性もあります。
■保有資産に関する調査
預貯金や不動産など、どのくらい資産があるか調べます。
生活をするのに十分な預金や、売却して生活費にできる自動車があると判断された場合などは、生活保護の給付が却下される場合もあります。
■扶養義務のある親族による経済的な援助の可否
扶養義務のある親族(配偶者・両親・子ども・兄弟など)のなかで、経済的な援助をできる人がいないかヒアリングを受けます。
ここで援助できる可能性のある親族がいると判断された場合、その人へ書面が送られ援助可否の回答を求めることになります。
援助可能と回答があった場合は、生活保護でなく親族の援助を受けるよう提案されるわけです。
なお回答は義務ではないため、実際には回答を得られない場合が少なくありません。(未回答の場合は、援助不能と判断されます。)
※配偶者からDVを受けている場合など、連絡してほしくない理由があればその旨を伝えれば、書面の送付を見送ってもらえます。
■就業の可能性があるかの調査
働いて収入を得られる状況でないか、詳しいヒアリング調査が行われます。
ここで健康的にも良好で就労することで十分な収入が得られると判断された場合、生活保護の申請は却下されます。
■ほかの公的制度で生活維持が可能か
前述の生活困窮者自立支援制度をはじめ、他の公的な支援制度で生活維持が可能か、あらためて詳しくチェックされます。
生活保護以外に適した制度がある場合は、他の制度の利用をすすめられます。
原則14日以内に受給の可否が決定する
福祉事務所は調査の内容をふまえて、生活保護の申請から14日以内に受給可否を判定し結果の通知を行います。
審査結果は自宅へ郵送される「保護決定通知書」「保護却下通知書」で通知されます。
なお資産調査が難航している場合などは、審査の期間が最大30日まで伸びる可能性があるので注意しましょう。
14日経過しても通知が届かない場合は、申請を行った福祉事務所へ進捗を問い合わせてもよいです。
万一審査結果に不満があるときは、不服を申し立て再審査の請求をすることもできます。
再審査の際は、通知が行われてから原則3ヵ月以内に不服申立書(正副2通)を作成し担当する福祉事務所へ提出します。
不服申し立てを行う際は、再審査が可能かなどを地域の民生委員や弁護士といった第三者に相談するのもよいでしょう。
民生委員への相談方法は、お住まいの市町村役場へ問い合わせれば教えてもらえます。
また弁護士へ無料・低価格で相談する方法もあります。
Googleなどの検索サイトで「お住まいの都道府県 弁護士 相談」というキーワードで検索してみてください。
たとえば東京であれば、東京弁護士会が無料で生活保護に関する法律相談を受け付けています。
生活保護を受ける際の注意点
生活保護を受ける際は、当記事で解説したようにさまざまな条件があります。
これら条件をクリアしないと生活保護を受給することはできません。
また審査を通過して生活保護の受給が開始されても、その後の状況次第では生活保護の支給が打ち切られる可能性もあります。
生活保護の目的は、最低限の生活を保障することです。
言い換えれば、生活保護がなくても最低限の生活が送れると判断されれば生活保護も停止されます。
ゆえに生活保護を申請する際は、受給の条件や注意点をあらかじめチェックしておきたいところです。
この項では、生活保護を受けるにあたって、あらかじめ覚えておきたい以下の注意点について解説します。
- マイカーは原則持てないが条件次第では持つことが可能
- 受給開始後に得た資産は全て報告しなければならない
- 就労可能な受給者は職業安定所などで就労するための努力をしなければならない
生活保護を受けたいときは、あらかじめこれら注意点を把握しておきましょう。
マイカーは原則持てないが条件次第では持つことが可能
マイカーを所有すると自動車税や車検代、ガソリン代などさまざまな費用を負担する必要があります。
公共交通機関であれば、マイカーより安く移動も可能です。
そのためマイカーがあると、原則的に生活保護を受けることはできません。
マイカーを売ることにより当面の生活費を確保することもできます。
例外として以下にあげる条件に該当する場合は、自動車保有を認められる可能性があります。
■通勤・通院・通学にどうしても必要な場合
身体に障害があって自動車でないと、通勤や通院・通学のための移動が困難な場合もあるでしょう。
地域によっては公共交通機関が乏しく通院・通勤に自動車が必須となる場合もあります。
こういった背景があれば、自動車の保有も認められる可能性が高いです。
■おおむね半年以内に就職して生活保護を受ける必要がなくなる場合
だいたい6ヵ月以内に就職し生活保護から脱却して自立できるのが確実な状態であれば、自動車の保有が認められます。(ただしマイカーの利用は就職活動に限定されます。)
■自営業で、仕事に自動車が必要
お店の運営などで自動車がどうしても必要な場合も、マイカー所有が認められる可能性があります。
受給開始後に得た資産は全て報告しなければならない
生活保護法第61条では、生活保護利用者の生計状況に変更があった場合にその旨申告することを義務付けています。
■生活保護法抜粋
(届出の義務)
第六十一条 被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。
参照元:e-gov法令検索
申告を怠ってしまうと、後日の調査で発覚した場合に不正受給とみなされてしまうので注意してください。
不正受給とみなされると、援助されたお金の返却を求められることはもちろんのこと、最悪の場合は刑事罰に問われてしまう可能性もあります。
新たに得た資産を申告する義務があるのは、「受給者が生活保護を受ける必要な状態かどうか」を判断するためです。
生活保護受給後に資産を取得した際は、必ず担当のケースワーカーへ申告するようにしましょう。
就労可能な受給者は職業安定所などで就労するための努力をしなければならない
生活保護を受給する場合、健康で就労可能な受給者に対しては就労の支援が行われます。
具体的には、職業安定所(ハローワーク)と連携して受給者ごとの支援プランが実行されるのです。
利用者の適正をみて就職先のアドバイスが行われることもあります。
生活保護法でも、利用者は生活の維持向上に努めることを義務付けています。
■生活保護法抜粋
(生活上の義務)
第六十条 被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない。
参照元:e-gov法令検索
ただし上記引用した法律にもある通り、あくまで「能力に応じて」である点にも注意しましょう。
たとえば病気や障害などで全く働けない方や少ししか働けない方が、無理に就労を強制されるわけではありません。
仮に無理な指示があった場合は、民生委員や法律の専門家などに相談が可能です。
生活保護受給に関するよくある質問
生活保護を受給するためには、いろいろな条件がある点は見てきたとおりです。
受給後も、新たに得た資産を報告したり就労の努力をする必要があったりといったルールがあります。
生活保護は、「最低限の生活を保障するための最終手段」だからです。
はじめて申請を検討している方は、分からないことも多いのではないでしょうか。
この項では生活保護を受給するにあたり、よくある以下の質問について解説します。
- 生活保護の相談に行く際に必要なものは?
- 生活保護を受けるのが申し訳なくなってしまう
- 生活保護を受けているのが周りに知られてしまうのでは?
- ローンや借金がある場合でも生活保護は受けられるの?
いずれも生活保護を申請する前に、解決しておきたい疑問ばかりです。
生活保護の受給を検討する際は、これらの疑問を解消してから手続きを行うとよいでしょう。
疑問があったり不安があったりすると、適切に生活保護を利用できません。
生活保護の相談に行く際に必要なものは?
生活保護を申請する際は、特別な書類などの持参が必ずしも必要ではありません。
申請のための書類(保護申請書など)は、福祉事務所で事前相談をした際に手渡されるので、自宅で記入してなるべく早く提出しましょう。
提出が遅れれば、もちろん保護の開始も遅れることになります。
なお必須ではないものの、持参することで手続きがスムーズになる可能性がある書類はあります。
できる限り、以下を用意して事前相談にのぞむとよいでしょう。
■本人確認できる書類
- 運転免許証や健康保険証など
■現在の収入を証明できる書類
- 給与明細書
- 年金手帳
- 児童手当の通知書
- 雇用保険受給者証
■資産について証明する書類
- 銀行の通帳
- 生命保険や損害保険の証書
- 車検証
■その他
- (賃貸住宅に住んでいる場合)賃貸借契約書や家賃を証明できるもの
- (持ち家の場合)不動産登記簿謄本と固定資産税の通知書など
上記以外に病気や障害をかかえているときは、障害者手帳や診断書などがあるとよいです。
生活保護を受けるのが申し訳なくなってしまう
働いて税金を納めている人に対して、生活保護を受けて暮らしていると申し訳なく思ってしまうという人もいるでしょう。
しかし最初に紹介した憲法25条にある通り、「健康で文化的な最低限度の生活」は国民に保障された当然の権利です。
そのために必要な生活保護も、その権利を守るために必要な手段ですので、利用を躊躇する必要はありません。
厚生労働省でも、公式サイトで必要な場合は生活保護を積極的に利用するように推奨しています。
生活保護の申請は国民の権利です。
生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください
参照元:厚生労働省公式サイト「生活保護を申請したい方へ」
非正規雇用の拡大・ワーキングプアの増加などが社会問題化している昨今において、厚生労働省がいう通り、生活保護が必要となる可能性は誰にでもあります。
社会情勢により、就職が困難な状況になることもあるでしょう。
生活保護の利用を恥じる必要はありません。
生活保護を受けているのが周りに知られてしまうのでは?
原則として利用者の生活保護受給を把握しているのは、福祉事務所やケースワーカーの他、親族・通院している病院・民生委員・大家などです。
(扶養照会が不要とされた場合は、親族に知られることもありません。)
福祉事務所はプライバシーを守りますから、近所の方などに知られることはありません。
ただし昼間から出歩いていたり、パチンコ屋などで遊んでいたりする姿を近所の人に怪しまれる可能性はあります。
近所の目を完全に誤魔化すのは難しいですが、あまり疑われないよう注意しましょう。
その他、生活保護を受給していると国民保険に未加入=保険証を持っていないので、周囲に気づかれる可能性がないとはいえません。
たとえば子供の修学旅行では、保険証のコピー提出を求められる可能性があるものの、生活保護受給者は保険証のコピーがとれません。
代わりに生活保護の受給証を提出するのですが、受給証を子供が周囲にみせてしまうと生活保護を受給していることが知られる可能性もあります。
子供には、必要な人以外には受給証を見せないよう注意することが必要です。
ローンや借金がある場合でも生活保護は受けられるの?
借金やローンの有無は、生活保護受給の条件には記載されていません。
そのため仮にローンや借金があっても、その他の条件を満たしてさえいれば生活保護を申請し受給すること自体は可能です。
ただし生活保護費はローンや借金の返済に充てる事はできません。
生活保護費は最低限の生活を営むために支給されているためです。
借金返済をはじめ、この目的以外に利用すれば不正受給と判断されてしまう可能性があります。
しかし生活保護の受給中でも借金の返済自体は必要です。
そのため生活保護支給前に、自己破産などの債務整理を検討しておくのも1つの手です。
債務整理をすることによって、借金の軽減や免除ができます。
なおローンや借金がある場合は、必ず申請時にケースワーカーへ申告するようにしましょう。
仮に生活保護の受給中に知られてしまうと、やはり不正受給と判断されてしまう可能性があるからです。
まとめ
生活保護は、国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するために設けられた制度です。
生活保護を申請すると、最低限度の生活を送るのに必要となる経済的な援助を受けられます。
生活保護自体は、すべての国民に認められた権利ですので、利用を躊躇したり恥じたりする必要はありません。
生活保護を受給する際は、必要な条件を満たしているか審査が行われます。
受給の条件は働けないこと、持ち家などの資産を活用できないこと、他の公的制度では十分でないこと、親族の支援が得られないことです。
申請から原則14日以内に審査が完了し、審査を通過すれば受給が開始されます。
また受給開始後も就労のための努力をしたり、収入や新たに得た資産をケースワーカーに申告したりといった義務があるので注意しましょう。
利用者はケースワーカーや福祉事務所と相談しながら、生活保護から脱却し自立を目指す必要があります。
さらに生活保護の受給中は、新たな借金はできませんので注意してください。